勝率60%なのに5連敗する|二項分布から学ぶ「手法が壊れた」の見分け方

学術的視点から考える投資

10回売買して6勝4敗。「このやり方、勝率60%かも」と少し手応えが出てきた。そのあと5連敗すると、急に全部が怪しく見えてきますよね。

最初の10回はたまたま勝っただけ? それとも5連敗の方がたまたま? 記録を見ても、どちらにも説明できそうで困るところ。

そこで「勝率60%なら何連敗までセーフ」と一本の線を引きたくなる。でも確率は、合格と不合格をきれいに分ける判定機ではないんですよね。連敗が起きる頻度は見積もれても、目の前の連敗が偶然だったと証明してくれるわけではない。

二項分布や区間推定は、分かっている範囲と分からない範囲を分ける道具。まずはそこから見てみよう。

勝率60%は「きれいに6勝4敗」を意味しない

勝率60%の手法と聞くと、10回ごとに6勝4敗が並ぶ姿を想像しやすいんですよね。

頭に浮かびやすい並び
○ ○ × ○ × ○ ○ × ○ ×

実際にありうる並び
○ ○ ○ ○ × × × × 〇 ○

どちらも10回では6勝4敗。勝率だけ見れば同じでも、下の並びでは途中に4連敗がある。ランダムな並びは、○と×が行儀よく交互に出てくれるものでもないんですよね。

TverskyとKahnemanは1971年の小数の法則に関する論文で、人は小さな標本まで母集団の特徴をよく表すと思いやすく、標本数による揺れの差を軽く見やすいと論じています。10回でも100回でも「本当の勝率らしい並び」が出ると思ってしまう感覚。

でも10回は、まだ並び方の気まぐれが大きい。6勝した事実は残るものの、60%という数字を手法の固定された実力として扱うには粗いんですよね。

特定の5回が全部負ける確率は1.024%

各売買が独立し、毎回の勝率が60%で変わらないと仮定しましょう。負ける確率は40%なので、指定した5回が全部負ける確率は次の通り。

0.4 × 0.4 × 0.4 × 0.4 × 0.4
= 0.01024
= 1.024%

1%なら、やっぱり珍しく見えますよね。そこには小さな落とし穴があるんです。1.024%は「次の5回」や「1回目から5回目」のように、場所を一つ指定した確率。

100回売買すれば、5連敗が始まる候補は何か所もある。1〜5回目、2〜6回目、3〜7回目という具合に重なっていく。候補同士が重なるので単純な掛け算では出せないものの、「連敗なし」「1連敗中」から「4連敗中」までの状態を一回ずつ更新すれば正確に計算できる。

勝率60%、各回が独立という同じ仮定で、期間中に5連敗が一度以上出る確率はこちら。

売買回数5連敗が一度以上ある確率
10回4.1%
20回10.0%
50回25.6%
100回45.9%
200回71.4%

勝率60%でも、100回続ければ5連敗を一度以上経験する確率は45.9%。特定の5回では1.024%なのに、長い記録のどこかで起きる確率はずっと高くなる。

「5連敗したから勝率60%ではない」とは言い切れないし、「確率内だから問題なし」とも言い切れない。計算が教えてくれるのは、5連敗だけでは判決を出せないというところまで。

現実の売買は、コイン投げより条件が動く

先ほどの45.9%には、強い前提が二つ。

  1. それぞれの結果が独立している
  2. いつ売買しても勝率60%で変わらない

実際の相場では、この二つがよく揺れる。同じトレンド追随ルールを似た銘柄へ使えば、一度の相場転換でまとめて負けるかも。決算期だけ値動きが荒くなることもあれば、売買代金が減って想定価格で約定しない日もある。

二項分布の基準
同じ勝率 × 独立した試行
          ↓
現実の売買
地合い・銘柄の重複・コスト・自分の実行で結果がつながる

負けが続く理由は、少なくとも三つへ分けたいところ。

分け方起きていること確認するもの
確率の揺れルールも環境も大きく変わらず結果だけ偏った長期の想定範囲、売買回数
実行のズレ入るのが遅い、損失を延ばす、コストが増えた注文記録、約定、ルール違反
構造の変化ルールが効いていた相場条件が変わったボラティリティ、流動性、相関、材料

どれも損益表では「1敗」。でも対処は同じにならないんですよね。ルール違反の5敗を手法の性能へ入れたら評価が濁るし、相場構造が変わった5敗を偶然で片づけるのも危ない。

6勝4敗の「60%」には広い幅がある

観測した勝率には、標本数による不確かさがある。10回中6回勝った60%と、200回中120回勝った60%は、表示だけなら同じ。でも後者の方が推定の幅は狭くなる。

その幅を見る方法の一つがWilson区間。Edwin B. Wilsonが1927年の統計的推論に関する論文で示した考え方を使い、観測勝率60%の95%区間を計算するとこうなる。

記録観測勝率95%Wilson区間
6勝/10回60%31.3〜83.2%
12勝/20回60%38.7〜78.1%
30勝/50回60%46.2〜72.4%
60勝/100回60%50.2〜69.1%
120勝/200回60%53.1〜66.5%

6勝4敗から計算した31.3〜83.2%は、ほとんど何でも入りそうな広さですよね。10回の60%は嘘ではないけれど、精密な性能表示にはまだ遠い。

この区間は「真の勝率が95%の確率で中にある」と読むものではないんですよね。同じ手順で標本を取り、区間を作る作業を何度も繰り返した時、その区間が長期的に真の値を含む割合を95%にする設計。ここでは、記録の粗さを見る定規くらいに使う。

売買回数を増やせば何でも解決するわけでもないんですよね。上昇相場の200回と、環境が変わったあとの次の1回は同じ条件とは限らない。数を集めることと、同じルール・似た条件で比べることの両方が要る。

勝率が高くても、損益が残るとは限らない

勝率60%が本当に安定していても、それだけでは利益が残るか分からない。1回勝った時の利益と、負けた時の損失が入っていないから。

1回あたりの簡易的な期待値
= 勝率 × 平均利益
- 敗率 × 平均損失
- 売買コスト

コストを入れる前の単純な例で比べてみよう。

手法勝率平均利益平均損失1回あたり期待値
A60%+5%-4%+1.4%
B75%+1%-5%-0.5%
C40%+8%-3%+1.4%

Bは4回中3回勝つのに、1回の損失が大きく平均ではマイナス。Cは勝率40%でも、勝った時の幅が大きいためAと同じ期待値。実際には手数料、スプレッド、税金、複利もあるので、表は仕組みを見るための簡略版。

連敗後に勝率だけを見直すと、損失額の拡大を見落としやすいんですよね。「以前と同じ敗率だけれど、損切りが遅れて平均損失が3%から7%へ増えた」なら、問題は連敗数より一敗の中身。

連敗の痛さは、勝率より先に保有額で変わる

連敗をゼロにするのは無理でも、連敗した時の下落幅は保有額で変えられる。毎回、口座全体に対する損失を一定割合へ抑えられたと仮定し、5連敗後の資産減少を複利で計算した表。

1回の損失5連敗後の資産減少
0.5%約2.5%
1%約4.9%
2%約9.6%
5%約22.6%

1回5%の損失なら5連敗で約22.6%減る。元へ戻るには約29.2%の上昇が必要。同じ5連敗でも、1回1%なら減少は約4.9%。連敗確率を細かく当てるより、一敗の上限を決める方が口座への効き方は直接的なんですよね。

もちろん現実には窓開けや流動性不足があり、想定した損失で必ず止まるとは限らない。だから表の数字を保証にせず、悪い約定や同時下落も別枠で見ておきたいところ。

「次は勝つはず」と「もう壊れた」は反対に見えて近い

5連敗のあと「そろそろ勝つ番」と金額を増やすのは、独立した試行なら筋が通らない。過去5回が負けでも、次の勝率は60%の仮定のまま。負けたぶんだけ次が当たりやすくなるわけではないんですよね。

反対に「5回も負けたから次も負ける」と決めるのも、同じデータへ別の物語を足している。前者はギャンブラーの誤謬、後者は冷えた手が続くという見方。結果の並びだけから次の確率を変えている点は似ている。

AytonとFischerのランダムな並びに関する実験では、同じような二値の並びでも、ルーレットの結果には反転を期待し、人の予測成績には継続を期待する反応が示されました。数字の並びが同じでも「偶然が作った」「人の能力が作った」という説明で、次への見方は反対になる。

投資手法は人が作り、相場という変わる環境で使うので、完全なコイン投げとは別物。だから連敗を無視するのでも、連敗だけで捨てるのでもなく、勝率を生んでいた条件が残っているかを見る必要が出てくる。

手法の見直しは、連敗する前に条件を置く

損失が出てから基準を作ると、続けたい時には「確率の揺れ」、やめたい時には「相場が変わった」と説明できてしまう。検証条件は、気持ちが平らな時に置いておくくらいがちょうどいい。

事前に決める項目記録する内容自分の場合
1回の売買の定義同じ日に分けた注文を1回にするか
検証する売買回数・期間何回、または何か月で見直すか
想定する勝率の範囲一点ではなく幅で置く
平均利益と平均損失コスト控除後で記録
許容する最大下落金額と率の両方
手法が効く前提トレンド、流動性、決算期など
一時停止の条件ルール逸脱、コスト急増、前提変化

連敗数を警報に使うのはあり。でも「5連敗で手法終了」と結果だけで決めるより、5連敗したら注文記録と相場条件を点検する、くらいに置く方が使いやすいかな。

連敗が発生
   ↓
決めたルールどおりだった? ─ いいえ → 実行のズレを分ける
   │はい
   ↓
コストや約定が想定内? ─── いいえ → 取引条件を再計算
   │はい
   ↓
手法が効く相場の前提は残る? ─ いいえ → 構造変化として再検証
   │はい
   ↓
事前の検証回数まで記録し、勝率の幅・損益率・下落率をまとめて見る

途中でルールを変えたなら、変更前と変更後は別の標本。負けを消すために条件を足すと、過去データへぴったり合うだけの手法になりやすいんですよね。検証用の期間や未使用データを残すのも、同じ理由。

連敗は答えではなく、点検を始める合図

勝率60%でも5連敗は起こる。100回のどこかで一度以上起きる確率は、独立・勝率一定という仮定なら45.9%。だから5連敗だけで手法の終了判定はできない。

一方で「確率ならありえる」と言い続ければ、壊れた手法も永遠に残せてしまう。見る順番は、ルールどおりだったか、コストは増えていないか、相場の前提は残っているか。そのあとに勝率の推定幅、平均利益と平均損失、最大下落を重ねる。

10回中6回の60%は、完成した実力ではなく途中の観測。5連敗も、失格通知ではなく追加データ。勝敗の並びに急いで物語をつけず、最初に決めた点検表へ戻る。そのくらいの距離が、手法を早く捨てることと、壊れても抱えることの両方を減らしてくれそう。

※本記事は確率・統計と投資記録の考え方を扱う一般的な投稿です。特定の売買手法や金融商品の利用を勧めるものではなく、計算例は独立性や勝率一定など単純化した仮定に基づく例。将来の結果は保証しません。

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