最高値から減った25万円は「損」なのか|口座のピークを基準にしない考え方

投資哲学・メンタルラウンジ

投資口座が100万円から150万円まで増えた。ちょっとうれしくて、何度か残高を見直したりもする。ところが相場が下がって125万円になると、頭に浮かぶのは「まだ25万円増えている」より「25万円なくなった」だったりしませんか。

実際の残高は125万円。元本から見ればプラス25万円なのに、気分はマイナス25万円。数字が間違っているわけではなく、比べる場所が違うんですよね。

このズレを放っておくと「あの150万円へ戻るまで売れない」「25万円を取り返すために買い増したい」「次に150万円へ戻ったら全部売ろう」と、過去最高額が売買の司令塔になってくる。企業の業績や資産配分より、口座画面に一度表示された数字の方が強くなる感じ。

過去最高額を見るのが悪いわけではないんです。下落幅やリスクを測るには必要な数字。でも、自分が損をしたか、今も持つ理由があるか、生活の目標へ近づいたかまで全部ピーク基準で決めると話が混ざる。まずは数字を三つに分けてみよう。

同じ125万円でも、比べる数字で気分が変わる

100万円を投資し、150万円まで増えたあと125万円へ下がった例で考えます。

比べる基準計算見えるもの
投資元本100万円125万円-100万円=+25万円投資開始からの損益
過去最高額150万円125万円-150万円=-25万円ピークからの下落
生活目標200万円125万円-200万円=-75万円目標までの距離

三つとも計算は合っている。でも答えている質問は別物。

投資元本                現在                 過去最高額            生活目標
100万円 ─────── 125万円 ─────── 150万円 ─────── 200万円
          +25万円          -25万円             あと75万円
          元本比            ピーク比             目標比

元本比は、投資を始めてから増えたか減ったかを見る数字。ピーク比は、どれくらいの下落を経験しているかを見る数字。目標比は、家の修繕や老後資金など、使う予定へどこまで近づいたかを見る数字になる。

問題は、ピーク比のマイナス25万円を見て「投資で25万円損した」「取り返さないと」と考えてしまう時。150万円は一度表示されたけれど、その時に売って現金へ替えたわけではない。税金や手数料、売却後の運用も決まっていなかった。使える現金として確定していた数字ではないんですよね。

過去最高額は、いつの間にか心の買値になる

KahnemanとTverskyのプロスペクト理論では、人は最終的な資産額だけでなく、ある参照点から増えたか減ったかで結果を捉えると考えます。参照点より上なら利益、下なら損失という見え方。

株の買値が参照点になるのは分かりやすい話。でも参照点は固定ではなく、口座の最高額へ動くこともある。150万円を見た瞬間から、その数字が「自分の持っている額」に近い感覚へ変わり、125万円が損失に見えてくる。

最初の参照点       100万円
上昇後の参照点     150万円へ移動
現在額             125万円

元本より上なのに、心の基準より下
                    ↓
利益が残っていても損失の痛みが出る

しかもピークは目立つ。大台を超えた日、スクリーンショットを撮った日、SNSへ書いた日なんかは記憶に残りやすい。毎日の平均残高は覚えていないのに「一時は150万円あった」は妙にはっきり覚えている。心の買値としては強すぎる数字なんです。

減った利益を、自分のお金ではないと言い切るのも違う

「含み益は幻だから気にしない」と片づける言い方もあるけれど、私は少し乱暴だと思う。125万円は現時点の資産だし、150万円から25万円下がった事実もある。下落で将来使えるお金が減ったなら、何も起きていないわけではないから。

特に、近いうちに使う予定のお金ならピークからの下落も軽く扱えない。来年の住宅頭金として150万円が必要だったのに、株式のまま持ち続けて125万円になったなら、問題は「幻の利益を惜しんだ」だけではなく、使う時期と資産の値動きが合っていなかったこと。

一方、20年先へ向けて積み立てていて、途中の150万円に使い道もなかったなら、ピークを守るためだけの売却は目的とずれるかも。最高額が同じでも、使う時期で意味は変わるんですよね。

状況ピークからの下落で見ること売買より先に直すもの
1~2年以内に使う予定必要額を割っていないか現金化の時期、値動きの小さい資産への移行
長期の積立途中想定した下落幅の内側か積立額、資産配分、確認頻度
個別株へ集中会社の前提が変わったか業績、財務、保有比率、撤回条件
レバレッジ商品下落で強制決済へ近づかないか証拠金、借入、最大損失額

過去最高額を忘れる必要はない。使い道を「損した気分の証明」から「リスクの点検」へ変えるくらいがちょうどよさそう。

「150万円へ戻ったら売る」は、会社と関係のない条件

ピークから下がった時に出やすいのが「元の150万円へ戻ったら売ろう」という考え。気持ちは分かるんです。減った25万円を回収して、損をなかったことにしたい。

でも相場は、自分の口座が以前いくらだったかを知らない。保有株が上がるか下がるかは、業績、金利、需給、評価の変化などで動く。150万円は自分にとって意味があっても、企業価値を測る数字ではないんですよね。

しかも口座全体が150万円へ戻る方法は一つではない。保有株が回復する、追加で25万円を入金する、別の商品が上がる。この三つは中身がまるで違うのに、口座残高だけなら同じ150万円。

150万円へ戻った理由投資判断としての意味
保有企業の利益見通しが改善保有理由も変わるか確認
市場全体が上昇個別企業の弱点が直ったとは限らない
25万円を追加で入金運用で取り返したわけではない
別の保有商品が上昇元の銘柄を持つ理由とは別

「戻ったら売る」を置くなら、金額だけでなく中身もセットにしたいところ。決算で利益率が戻ったら、保有比率が上限を超えたら、生活目標へ届いたら。売る理由が会社や家計につながっていれば、過去の口座画面から少し離れられる。

最高値を取り返そうとすると、リスクまで増やしやすい

150万円から125万円へ下がったあと、25万円を早く取り返したくなる。そこで追加資金を一気に入れたり、値動きの大きい商品へ移ったりすることもある。

ThalerとJohnsonの研究では、それ以前の利益や損失が次のリスク選択へ影響することを、ハウスマネー効果や損失を取り戻そうとする反応から示しています。実際の投資は実験と同じではないけれど、過去の結果を次の勝負へ持ち込む感覚は想像しやすいかな。

ピーク比で25万円減ったことを「借金」のように感じると、次の投資へ返済期限までつけたくなる。年内に戻したい、次の決算で取りたい、倍になる銘柄で埋めたい。元の運用計画にはなかった締切です。

ピークから25万円減少
        ↓
早く戻したい
        ↓
入金額・保有比率・値動きを大きくする
        ↓
さらに下がると、戻すための金額も増える

125万円から150万円へ戻るには20%の上昇が必要。もし100万円まで下がれば、150万円へ戻るには50%上昇が要る。取り返したい額が増えるほどリスクを上げるなら、数字のハードルと保有額が一緒に膨らんでしまう。

現在額150万円へ戻るのに必要な上昇率
140万円約7.1%
125万円20.0%
100万円50.0%
75万円100.0%

この表は「回復を諦めよう」という意味ではないです。ピークへ戻る率を見て、焦ってリスクを増やしていないか確かめるためのもの。回復率が大きいほど、急ぐより保有額と期間を落ち着いて見直したい。

高値から売れなかった自分を、あとから責めすぎない

150万円の時に売れたはず、と考え始めると、その日のチャートだけが鮮明に見える。でも当時は、そこが最高値だと分かっていなかった。翌日160万円になる可能性も、125万円になる可能性も残っていたはず。

過去のチャートでは天井が一本の線に見える。リアルタイムでは、ただの途中経過。あとから最高値を知った自分と、まだ未来を知らなかった自分を同じ条件で採点するのは厳しすぎるかな。

振り返るなら「最高値で売れたか」ではなく、当時のルールが機能していたかを見る方が役に立つ。

振り返る質問自分の場合
使う時期が近いお金を株式のままにしていなかったか
一銘柄や一テーマへ偏りすぎていなかったか
上昇後に資産配分を確認する日があったか
保有理由が崩れた時の条件を書いていたか
最高額を見て生活支出まで増やしていなかったか
下落後に予定外の入金や借入をしていないか

ルールがなかったなら、責めるより次のルールを一つ作る。最高値から10%下がったら売る、と機械的に置く話ではなく、10%下がったら保有比率と使う時期を確認する、くらいの点検条件。価格を即売買の命令にせず、見直しの合図へ変える感じです。

口座には三つの基準を並べておく

過去最高額だけを見ないようにしようとしても、記憶から消すのは難しい。それなら最初から、最高額の隣へ別の基準を置いておく方がラク。

基準金額・内容使う場面自分の場合
投資元本入金額-出金額投資開始からの損益を見る
現在額今日の評価額今の資産配分とリスクを見る
過去最高額これまでの最大評価額最大下落と耐えられる幅を見る
生活目標使う金額と時期現金化の予定を考える
保有理由業績、分散、積立目的持ち続ける理由を見直す

個別株なら、口座全体の最高額と銘柄の最高値も混ぜないようにしたい。口座は増えているのに一銘柄だけ下がった、銘柄は戻ったのに入金を含めると成績を勘違いした、なんてこともあるから。

月末に一度、五つの欄を更新する。毎日ピークを書き換える必要はなく、売買もその場では決めない。数字を写したあと、保有理由か生活目標に変化があった時だけ別日に検討する。そのくらい間を空けた方が、悔しさと判断を分けやすいと思う。

最高額は目標ではなく、通過した記録

口座の150万円は、一度通過した大切な記録。でも未来の相場が必ず返してくれる預金でもなければ、自分が相場から取り立てる25万円でもないんですよね。

見るなら「150万円を失った自分」ではなく「150万円の時に、リスクと使う予定を確認できていたか」。次に資産が増えた時も、最高値を当てて売るのではなく、近い支出を現金へ移す、偏った資産を戻す、保有理由を読み直す。やることは意外と地味。

元本100万円、現在125万円、最高150万円。プラス25万円とマイナス25万円は同時に存在する。どちらか一方を消す話ではないので、売買を決める席には企業の事実、資産配分、生活の予定を座らせる。最高額は議事録くらいの場所が合いそう。

※本記事は投資判断の考え方を扱う記事です。特定商品の売買を勧めるものではありません。投資元本や評価額だけでなく、生活資金、税金、手数料、商品のリスクも確認してください。

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