第19回:なぜ下げている時に売ってしまうのか?

投資哲学・メンタルラウンジ

「これ以上下がったら、本当にまずいかもしれない」

そう思って株を売ったら、翌日から反発し始めた。投資をしていると、こんな悔しい経験をすることがあります。

頭では「安いときに売ったら損」と分かっているのに、下落が続くと売却ボタンを押したくなるんですよね。

ただ、これは根性がないからではありません。お金が減り続ける不安から、早く逃げたくなるのはかなり自然な反応です。

大事なのは、下落中は絶対に売らないと決めることではなく、感情で売る場面と、理由があって売る場面を分けておくことです。

1.売りたいのは、損失より不安を終わらせたいから

株価が下がっているときは、損失だけでなく「この先どうなるか分からない」という不安も大きくなります。

10%下がったときは耐えられても、15%、20%と下がるにつれて、「まだ下がるかもしれない」「今売らないと全部なくなるかもしれない」と考え始めます。

そこで売却すると、株価が戻るかどうかは別として、その瞬間だけは不安から解放されます。毎日マイナスを見る必要がなくなり、これ以上損失が増える心配も止まるからです。

株価が下がる
     ↓
不安が大きくなる
     ↓
ニュースやSNSを何度も見る
     ↓
さらに悪い未来を想像する
     ↓
不安を終わらせるために売る
     ↓
売った直後だけ少し安心する

つまり、銘柄を売りたいというより、今の苦しい気持ちを早く消したくなっている場合もあるんですよね。

2.人は利益より損失を重く感じやすい

行動経済学のプロスペクト理論では、人は利益と損失を同じようには受け取らず、損失をより強く意識する傾向が示されています。

ただし、「損失を強く感じるから、必ず売る」という単純な話ではありません。普段の小さな含み損では、損を確定したくなくて持ち続ける人もいます。

ところが下落が長引き、今後さらに減る恐怖が強くなると、今度は「これ以上の損失を止めたい」という気持ちが前に出ます。最初は売れなかったのに、かなり下がってから急に全部売りたくなるのは、この気持ちの切り替わりも関係していそうです。

金融判断を扱った脳研究でも、不安や危険の予測に関係する反応が、必要以上に安全な選択をする場面と結びつくことが示されています。ただ、「含み損を生命の危機と勘違いする」「扁桃体が暴走する」とまで言い切るのは少し大げさです。

3.狼狽売りまでの流れは、ある日突然ではない

狼狽売りは、たった一日の下落だけで起きるとは限りません。小さな不安が積み重なり、最後に我慢の限界を超えて起こることがあります。

最初は「これくらいなら戻る」と思う

数%の下落なら、まだ余裕があります。「長期投資だし、よくある値動きかな」と考えられます。

悪い情報ばかり探すようになる

下落が続くと、ニュースやSNSを何度も確認するようになります。すると「暴落の始まり」「まだ半値になる」といった強い言葉が目に入り、不安がさらに大きくなります。

買ったことまで後悔し始める

「あのとき買わなければよかった」「少し下がったところで売ればよかった」と、現在の値動きだけで過去の判断を採点し始めます。

不安を止めるために全部売る

銘柄の状態や投資目的よりも、「もうこれ以上見たくない」という気持ちが優先されます。ここまで来ると、一部を減らすという考えもなくなり、全部売って終わらせたくなるんですよね。

ただし、売った場所が必ず底になるわけではありません。その後さらに下がることもあれば、すぐ反発することもあります。

狼狽売りの問題は底値で売ることではなく、自分の判断基準を失ったまま売ってしまうことです。

4.下げているときに売ることが、全部ダメなわけではない

ここはかなり大事です。

株価が下がっているときでも、売った方がよい場面はあります。個別株の業績が大きく悪化した、買った理由がなくなった、生活費が必要になった、投資額が大きすぎて日常に影響している。こうした理由があるなら、売却は狼狽ではなく調整です。

売る理由考え方
怖くて今すぐ楽になりたい一度時間を置いて確認する
買った前提が崩れた売却を検討する
生活に必要なお金になった生活を優先してよい
投資額が大きすぎた一部売却で調整する
SNSで暴落予想を見た他人の予想だけで決めない

特に、広く分散されたインデックスと、一社だけに投資する個別株は分けて考えた方がいいです。

市場全体へ長期投資しているなら、一時的な下落だけで方針を変えない考え方があります。一方、個別株は企業そのものが立ち直れない可能性もあるので、「暴落はいずれ戻る」と決めつけて持ち続けるのも危ないです。

5.「待てば必ず戻る」とは限らない

過去の大きな市場下落では、その後に指数が回復した例があります。ただし、将来も同じように回復する保証はありません。

市場全体が回復しても、すべての個別株が戻るわけでもないんですよね。経営が悪化した企業や、時代の変化で競争力を失った企業は、そのまま株価が戻らないこともあります。

そのため、下落時の対応は投資先によって変わります。

投資先下落時に確認すること
分散型インデックス目的、運用期間、積立額に無理がないか
個別株業績や財務、買った理由が残っているか
テーマ型商品流行だけで買っていなかったか
レバレッジ商品想定以上の損失や長期保有リスクがないか

何でも黙って持ち続けるのが正解ではありません。逆に、価格が下がったという理由だけで全部売る必要もありません。

判断を価格から投資の前提へ戻すことが大切です。

6.暴落前に「金額」で確認しておく

「30%の下落には耐えられる」と考えていても、実際に減る金額を見ると印象が変わります。

投資額30%下落した場合
10万円-3万円
100万円-30万円
500万円-150万円
1,000万円-300万円

割合だけなら耐えられそうでも、300万円減る画面を毎日見るのはつらいかもしれません。

だから、投資する前に「何%下がるか」だけでなく、「何円減るか」まで確認しておいた方がいいです。その金額を見て眠れなくなりそうなら、投資額が今の自分には大きすぎる可能性があります。

私は、狼狽売りをした人の心が弱いとは思いません。売らずにいられないほど大きな金額を持っていたなら、メンタルより先にポジションを見直した方がよさそうです。

7.狼狽売りを防ぐために、先に決めておくこと

下落が始まってから冷静なルールを作るのは難しいので、相場が落ち着いているうちに決めておきます。

① 売る条件を価格だけにしない

「10%下がったら売る」だけでなく、何が起きたら投資を続けないのかを決めておきます。

個別株なら、業績の悪化、減配、財務状態、事業の前提などが判断材料になります。インデックスなら、運用目的や使う時期、資産配分が変わったかを確認します。

② 一度に全部売らない選択肢を持つ

不安が強すぎるときは、ゼロか100かで考えなくても大丈夫です。

投資額の一部を現金に戻すだけで、気持ちが落ち着くこともあります。全部売ったあとに相場が反発して後悔する可能性も、一部を残せば小さくできます。

③ 生活費を投資と分けておく

近いうちに使うお金まで投資していると、下落を待つ余裕がなくなります。

生活防衛資金や数年以内に使う予定のお金を現金で残しておけば、「今すぐ売らなくても生活できる」と考えやすくなります。現金は利益を生まない待機資金ではなく、下落時に判断を急がなくて済む余裕でもあるんですよね。

④ 見る回数を減らす

資産額を一日に何度も確認すると、小さな値動きまで大事件に見えてきます。

長期投資が中心なら、通知を切る、証券アプリをホーム画面から外す、確認する曜日を決めるといった方法でも十分です。必要な情報まで無視するのではなく、感情を揺らすだけの確認を減らします。

8.売る前の5分チェック

下落中に全部売りたくなったら、注文を出す前に次の項目を確認してみてください。

確認すること自分の答え
買った理由は崩れた?
今日中に売る必要はある?
SNSを見なくても売っていた?
投資額が大きすぎなかった?
全部ではなく一部売却でもいい?
売ったお金をどうする?

売ったあとに現金をどうするかも決めていないなら、不安から逃げるためだけの売却になっているかもしれません。

一晩置いても同じ理由で売りたいなら、そのときにあらためて考えれば大丈夫です。ただし、信用取引やレバレッジ商品、生活資金が関係する場合は、のんびり待てないこともあります。商品の仕組みと自分の状況を優先してください。

まとめ:売る前に「怖い」と「前提が崩れた」を分ける

株価が下がれば、不安になるのは普通です。含み損が大きくなっているのに、何も感じない方が珍しいと思います。

ただ、「怖いから売りたい」と「投資の前提が崩れたから売りたい」は同じではありません。

価格が下がった
     ↓
怖いだけ? 前提が崩れた?
     ↓
怖いだけなら、時間を置く
前提が崩れたなら、売却を検討する
金額が重いなら、一部を減らす

暴落中に必ず持ち続ける必要も、必ず買い増す必要もありません。自分の生活や投資先を確認したうえで、持つ、減らす、売るを選べばいいんです。

私なら、売りたくなった瞬間ほど、まず「この銘柄が嫌なのか、それとも今の気分から逃げたいのか」を考えます。答えが後者なら、その日は注文より先に画面を閉じます。

相場が赤い日に、こちらまで真っ赤になって判断しなくてもいいんですよね。

第19回:チェックポイント

  • 下落時の不安は自然な反応だと知っておく
  • 売った場所が必ず底になるとは考えない
  • 下げているときの売却をすべて悪者にしない
  • インデックスと個別株を分けて判断する
  • 下落率だけでなく、減る金額も確認する
  • 生活費と投資資金を分けておく
  • 売る前に「恐怖」と「前提の崩れ」を区別する
  • 苦しいときは一部売却も選択肢にする

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