投資の世界には、「最悪のスタートは、最初の投資で大儲けすることだ」という少し怖い言葉があります。
初めて買った株がいきなり急騰したら、もちろんうれしいですよね。一生懸命調べた銘柄なら、「自分の読みが当たった」と思うのも普通です。
ただ、その成功が大きいほど、次の投資で金額を増やしたくなることがあります。「前回できたんだから、今回もいけるかも」と思ってしまうんですよね。
利益が出たこと自体は悪くありません。気をつけたいのは、その一回だけで自分の実力まで大きく評価してしまうことです。
1.一度の成功が「次も勝てる」に変わる
人は成功したとき、その理由を自分の知識や判断力に結びつけやすく、失敗したときは相場環境や運の悪さに理由を求めやすい傾向があります。心理学では、こうした考え方を「自己奉仕バイアス」や「自己都合バイアス」と呼びます。
もちろん、利益のすべてが運だったとは限りません。きちんと調べたことや、安いところで買えたことも結果に影響しているはずです。
それでも、上昇相場で多くの銘柄が値上がりしていたなら、自分の判断力だけで勝ったとは言い切れません。自分の分析と相場の追い風が、たまたま同じ方向を向いていた可能性もあります。
問題は、その区別をしないまま「自分には才能がある」と判断してしまうことなんですよね。
2.成功したあとに起こりやすい過信の流れ
最初の利益が、そのまま大きな失敗につながるわけではありません。次のような流れが重なると、少しずつ危なくなってきます。
最初の投資で大きく勝つ
↓
自分には相場が読めると思う
↓
次の投資額を急に増やす
↓
ルールより自信を優先する
↓
相場環境が変わっても認められない
↓
損失を取り返そうとして、さらに賭ける
最初の一勝が危ないというより、一勝したあとの行動が危ないという話です。
実際、幸運によってIPOの割り当てを受けた投資家を調べた研究では、その後に取引回数が増え、成績が悪化する傾向が確認されています。偶然の成功を、自分の投資能力だと受け取りすぎた可能性があると考えられています。
3.「もっと買っておけばよかった」が投資額を狂わせる
株価が大きく上がると、利益が出た喜びよりも「もっと買っておけばよかった」という気持ちが残ることがあります。
たとえば、50万円で買った株が80万円になったとします。30万円の利益なので十分うれしいはずなのに、「もし200万円買っていたら120万円も増えていた」と考え始めるんですよね。
そこで次の銘柄に200万円を入れ、その株が40%下がれば損失は80万円です。最初に得た30万円を失うだけでなく、さらに50万円減ることになります。
| 投資の流れ | 損益 |
|---|---|
| 最初の投資:50万円から80万円 | +30万円 |
| 次の投資:200万円から120万円 | -80万円 |
| 2回の合計 | -50万円 |
勝率は1勝1敗なのに、資産は減っています。投資では何回当てたかだけでなく、いくら賭けたかもかなり大事なんです。
私は、負けた直後よりも、大きく勝った直後の増額の方が怖いと思っています。負けたあとは慎重になれますが、勝ったあとは警戒心が薄くなりやすいからです。
4.ルールを破って勝つと、そのルールが邪魔に見えてくる
本来は「一つの銘柄に入れるのは資産の10%まで」と決めていたのに、期待できそうだから20%入れてみた。その結果、大きく上がったとします。
このときに残るのは、利益だけではありません。「ルールを破っても大丈夫だった」という成功体験も残ります。
次は30%、その次は50%と、投資額が少しずつ大きくなるかもしれません。何度か勝っている間は、それが上達したように感じられます。
でも、ルールを破ったことによる危険は、毎回すぐ損失になるわけではありません。何回か見逃されたあと、一度の下落でまとめて表に出ることがあります。
| 結果 | 判断の見方 |
|---|---|
| ルールを守って利益が出た | 良い判断だった |
| ルールを守ったが損失になった | 想定内なら、必ずしも悪い判断ではない |
| ルールを破って利益が出た | 利益は出たが、判断は見直したい |
| ルールを破って大きく損した | 金額とルールの両方を見直す |
利益が出たから正解、損失が出たから不正解と決めると、たまたま助かった危ない取引まで成功として覚えてしまいます。
5.相場環境が変わっても、前回の成功を繰り返してしまう
上昇相場では、多少高いところで買っても、その後さらに上がって助かることがあります。下がったところで買い増しをすれば、反発して利益になることもあります。
これが何度か続くと、「下がったら買い増せばいい」「損切りなんて必要ない」と思いやすくなります。
ところが、相場の流れが変わると同じ方法が通用しなくなります。以前は一時的な下落だったものが、本格的な下落の始まりかもしれません。
それでも「前は戻ったから」と買い増しを続けると、一つの銘柄に資金が集中していきます。判断の根拠が企業の状態ではなく、過去に成功した記憶へ変わってしまうんですよね。
特に個別株では、「前に戻ったから今回も戻る」とは限りません。業績や競争環境、財務状態など、買った理由が今も残っているかを確認した方がよさそうです。
6.勝った理由を三つに分けて考える
利益が出たときは、「自分の実力か、ただの運か」の二択にしない方が考えやすくなります。
今回の利益
├─ 自分の判断
├─ 相場環境
└─ 偶然の値動き
実際の利益は、この三つが混ざっていることがほとんどです。
決算を調べて買った判断はよかったかもしれません。一方で、その時期に市場全体が上がっていたことや、予想していなかった好材料が出たことも利益に影響しているかもしれません。
全部を正確に分けることはできません。それでも、「すべて自分の実力だった」と考えないだけで、次の投資額を急に増やしにくくなります。
勝ったあとに確認したいこと
| 確認すること | 自分への質問 |
|---|---|
| 市場全体の動き | 同じ時期に指数も上がっていた? |
| 買った理由 | 最初に考えた通りの理由で上がった? |
| 想定外の要因 | 偶然のニュースや材料はなかった? |
| 投資額 | 最初に決めた範囲を守れた? |
| 売却判断 | 雰囲気ではなく、自分の基準で売れた? |
比較する指数は、投資先に合わせます。米国株ならS&P500、日本株ならTOPIXなど、自分が何もしなくても得られた市場全体のリターンと比べると見えやすくなります。
個別株で20%儲かっていても、同じ期間に比較対象の指数が25%上がっていたなら、銘柄選びが特別うまくいったとは言いにくいですよね。
7.利益より先に、投資額を固定しておく
大きく勝ったあとに投資額を決めると、気持ちが強くなっている分、金額も大きくなりがちです。
そこで、勝つ前に上限を決めておきます。
たとえば「一つの個別株は金融資産の5%まで」「追加購入は一度に全額入れず、3回に分ける」「レバレッジ商品はホビー枠だけにする」といったルールです。
どの割合が合うかは、収入や資産、家族構成によって変わります。大事なのは、利益が出るたびに上限まで引き上げないことです。
資産を役割で分ける例
| 資産の役割 | 考え方 |
|---|---|
| 本隊 | 積立・分散・長期保有を中心にする |
| 個別株枠 | 一銘柄への上限を決める |
| ホビー枠 | 失っても生活や本隊に影響しない範囲にする |
| 現金 | 生活費や急な出費、次の機会に残す |
ホビー枠で利益が出ても、すぐ本隊から資金を移さない方が安心です。小さな金額で成功した方法が、大きな金額でも同じように通用するとは限らないからです。
8.「良い損失」と「危ない利益」を分ける
投資では、利益が出ても反省した方がいい取引があります。反対に、損失が出ても自分を責めなくていい取引もあります。
事前に決めた範囲で買い、想定していた撤退条件に当てはまったから売った。その結果が損失でも、資産を守るために必要な判断だったかもしれません。
一方、何も調べずに全力で買い、たまたま急騰して利益が出た。その取引を成功として繰り返すのは少し危ないですよね。
投資判断を振り返るときは、損益とは別にルールも採点すると分かりやすくなります。
利益が出たか 〇・✕
ルールを守れたか 〇・✕
この二つを分けておけば、「儲かったから全部正しかった」という考えを避けやすくなります。
頻繁に売買する個人投資家ほど、取引コスト控除後の成績が悪かったという研究もあります。成功による過信が売買回数を増やす可能性も指摘されているので、勝ったあとほど取引を増やしすぎていないか確認したいところです。
まとめ:最初の成功を「次も全力でいける」に変えない
最初の投資で利益が出たら、素直に喜んでいいと思います。わざわざ「これは全部運だった」と、自分の勉強や判断まで否定する必要はありません。
ただし、その一回だけでは自分の投資能力をまだ測れません。良い相場に助けられたのか、偶然の材料が出たのか、自分の考えが本当に合っていたのかは、何度か経験しないと分からないからです。
勝った直後に確認したいのは、次に何を買うかではありません。投資額を急に増やしていないか、前回破ったルールを正当化していないか、同じ方法がどんな相場でも通用すると思っていないかです。
私なら、大きく勝った日は新しい注文を入れず、一度その取引を振り返ります。利益が出た勢いのまま次へ進むより、自分がどこまで正しくて、どこから運だったのかを考える時間にしたいからです。
最初の利益で買うべきものは、次の銘柄ではなく「自分を疑う余裕」なのかもしれません。相場からもらったご祝儀を、その日のうちに相場へ返す必要はないんですよね。
第18回:チェックポイント
- 一度の成功だけで自分の実力を決めない
- 利益を自分の判断・相場環境・偶然に分けて考える
- 勝った直後に投資額を増やさない
- 損益とルールを別々に評価する
- 個別株やホビー枠の上限を先に決める
- 「前回戻ったから今回も戻る」と考えない
- 大きく勝った日は、次の注文より振り返りを優先する
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