「年平均リターン10%なら、100万円が毎年10%ずつ増える感じかな」
そう思うのは自然なんですよね。でも運用成績に出てくる「平均」には何種類かあって、同じ10%でも意味まで変わる。
たとえば1年目が+50%、2年目が-30%。二つを足して2で割ると平均は+10%。では100万円は2年後に121万円になるのかというと、実際は105万円。
「平均10%なのに、5万円しか増えてないんだけど」となるわけ。
計算ミスじゃないんですよね。相加平均は1年ごとの数字を足して割るもの。資産は前年の残高へ次のリターンを掛けるので、相乗平均で見た方が実際の増え方に近い。
同じ平均10%でも、2年後は121万円と105万円
値動きが違う二つの運用を比べてみよう。
| 運用 | 1年目 | 2年目 | 相加平均 | 100万円の最終額 |
|---|---|---|---|---|
| A | +10% | +10% | 10% | 121万円 |
| B | +50% | -30% | 10% | 105万円 |
どちらも相加平均は10%。でもAは毎年同じように増え、Bは大きく上がったあとに下がった形。
運用A:100万円 → 110万円 → 121万円
運用B:100万円 → 150万円 → 105万円
Bの相乗平均は次の計算。
√(1.50 × 0.70)-1 = 約2.47%
2年間を「毎年同じ率で増えた形」へ直すと、年率は約2.47%。121万円へ増える10%とは、ずいぶん離れるんですよね。
相加平均10%がウソという話じゃないんですよね。2年からランダムに1年を選んだ時の平均は10%。でも2年間持ち続けたお金が何%ずつ増えたかを聞かれたら約2.47%。質問が違えば、使う平均も変わるわけです。
リターンは足し算ではなく、残高への掛け算
上昇と下落を同じ幅で見ると、感覚がずれやすいもの。100万円が50%上がれば150万円。そこから50%下がると75万円です。
+50%と-50%の相加平均は0%なのに、資産は25%減。
100万円 × 1.50 × 0.50 = 75万円
上がる前と下がる前で、掛け算の土台が違うんですよね。利益と損失が同じ率なら打ち消し合う、とはならない。
数学では、すべての成長倍率が正なら相乗平均は相加平均以下。毎年のリターンが同じ時だけ両者は一致。値動きの散らばりが大きいほど、二つの平均も離れやすい。
下落率と回復率は左右対称じゃない
含み損が大きくなるほど、元へ戻るための上昇率は急に重くなる。
| 下落率 | 100万円の残高 | 元へ戻るための上昇率 |
|---|---|---|
| -10% | 90万円 | +11.1% |
| -20% | 80万円 | +25.0% |
| -30% | 70万円 | +42.9% |
| -50% | 50万円 | +100.0% |
| -70% | 30万円 | +233.3% |
-50%のあとに必要なのは+50%ではなく+100%。数字で見ると当たり前でも、値動きの画面では忘れがち。
だから「下落を全部避けよう」という話でもない。値動きをなくせば、期待できるリターンまで小さくなる場合もあります。見るなら、上昇率だけではなく、そのリターンを得るまでにどれくらい残高が揺れたか。リターンと値動きはセット。
相加平均と相乗平均、どちらが正しいの?
答えは「何を知りたいかで変わる」かな。
| 知りたいこと | 合う見方 | 理由 |
|---|---|---|
| 1期間の期待リターン | 相加平均 | 各期間の平均的な結果を見る |
| 過去に実現した複利成長 | 相乗平均・CAGR | 期間中の掛け算を反映する |
| 商品そのものの運用成績 | 時間加重収益率 | 入出金の影響を外しやすい |
| 自分のお金の増え方 | 金額加重収益率・IRR | 積立や売却の時期も含める |
| 将来の長期成長 | 一つに固定しない | 期間、ばらつき、推定誤差も関わる |
William Sharpeは1994年の論文で、平均と標準偏差を使う分析は基本的に1期間のリターンを扱い、複数期間では複利や自己相関によって関係が複雑になるという説明。
Ian Cooperの1996年の研究でも、過去の相加平均と相乗平均のどちらを将来の割引率へ使うかは単純ではないという論点があります。なので「相乗平均こそ本物、相加平均は偽物」と覚えるのも違うかな。過去の実績額なら相乗平均、次の1期間なら相加平均というように、役割を分ける方がすっきり。
値動きが大きいほど、複利の差は広がりやすい
リターンが極端でなければ、相乗平均は次の式でざっくり近似。
相乗平均 ≒ 相加平均 - 0.5 × 分散
相加平均8%、標準偏差20%なら、標準偏差を0.20として分散は0.04。近似した相乗平均は、8%-2%で約6%。
手数料のように誰かへ2%払ったわけじゃないんですよね。上げ下げを繰り返す掛け算の結果として、複利の伸びが相加平均より小さくなるという話。
J. L. Kelly Jr.の1956年の論文は、資本の指数的な成長率を最大にする考え方を示した研究。投資で対数成長率や幾何平均が重視される流れにもつながったもの。とはいえ個別株の配分へケリー基準をそのまま当てはめる話ではありません。確率も将来リターンも正確には分からないので、式が出した比率を答えにするのは別の危うさも。
実際に使いやすいのは「同じ平均リターンなら、値動きが穏やかな方が複利では残りやすい」というところまで。分散投資や保有額の調整には、下落の怖さだけでなく資産の成長倍率を守る意味も。
リターンの順番は、入出金がなければ最終額を変えない
「悪いリターンが先に来ると不利」とよく聞きます。でも最初に100万円を入れ、その後は追加も引き出しもしないなら、+20%と-10%の順番を入れ替えても最終額は108万円。
100万円 × 1.20 × 0.90 = 108万円
100万円 × 0.90 × 1.20 = 108万円
掛け算は順番を変えても答えが同じ。順番が効くのは、途中で積立や取り崩しが入る時なんですよね。
1年目の終わりに50万円を追加する例で比べてみよう。
| 順番 | 1年目終了 | 50万円追加後 | 2年目終了 |
|---|---|---|---|
| +20% → -10% | 120万円 | 170万円 | 153万円 |
| -10% → +20% | 90万円 | 140万円 | 168万円 |
同じ二つのリターンでも、あとから入れた50万円がどちらの年へさらされるかで15万円の差。積立中は下落が先に来た方が、安い残高へ多く追加できて有利になる場面もあるんですよね。
取り崩しでは向きが反対。退職直後の下落中に生活費を引き出すと、安い時に多くの口数を売るため、その後の回復へ乗る元本が減る。Clareらの順序リスク研究も、資産形成の終盤や取り崩しの序盤に悪いリターンが来る影響を扱っています。
「順番が怖いから相場を当てる」ではなく、積立額、生活防衛資金、取り崩し額、現金の置き方を一緒に考える話なんですよね。
商品の数字と、自分の成績を混ぜない
投資信託のCAGRが年8%でも、自分の口座が年8%で増えるとは限らない。上がったあとに大きく入金した、下がった時に積立を止めた、途中で一部売却した。そんな入出金があれば、自分の成績は商品とずれます。
商品を比べる時は、同じ期間の時間加重収益率やCAGR。自分の投資行動なら、入出金を含む金額加重収益率。この二つを分ければ「良い商品なのに自分は増えていない」「商品は普通なのに入金力で増えた」も混ざりにくいかな。
| 確認欄 | 見る数字 | 自分の場合 |
|---|---|---|
| 商品の過去成績 | 同じ期間のCAGR・時間加重収益率 | |
| 値動きの大きさ | 標準偏差・最大下落率 | |
| 損失からの回復 | 最大下落率に必要な回復率 | |
| 自分の成績 | 入出金込みの損益・IRR | |
| 順番への備え | 積立継続額・取り崩し用現金 |
将来シミュレーションへ年10%を入れる前に、その10%が相加平均なのかCAGRなのかを確認。分からなければ、低めの率も並べるくらいが現実的。
10%だけで1本の線を引くより、4%、6%、8%で3本。予想を当てる表ではなく「このくらいずれても家計は回るかな」と見る表の方が使いやすいと思います。
平均を見る時は、数字の名前まで見る
平均リターンは便利。でも便利な数字ほど、計算方法が省略されがちなんですよね。
相加平均は1期間の平均を見る数字。相乗平均は実際の複利成長を見る数字。入出金があれば、自分の成績にはそのタイミングも入ってくる。
同じ平均10%でも121万円と105万円。差を作ったのは、銘柄名でも相場予想でもなく、リターンを足したか掛けたか。
投資商品の「年平均」を見たら、数字の大きさより先に計算方法を確認する。次に値動きの幅と最大下落率。最後に自分の積立や取り崩しを重ねる。この順番なら、平均リターンを将来の約束として扱わずに済みそう。
※本記事は特定銘柄の購入推奨ではありません。紹介したデータや戦略は一つの強力な指標として参考にし、投資判断はご自身のリスク許容度に応じて行ってください。
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