① 含み損は怖がるのに、含み益は歓迎してしまう
投資を始めると、多くの人はまず含み損を恐れます。株価が下がる。評価額がマイナスになる。資産が減る。当然気分は良くありません。だから本やYouTubeでも、「含み損に耐える方法」「損切りの重要性」「暴落との向き合い方」といった話が数多く語られます。
一方で、含み益について警戒する人はあまりいません。むしろ歓迎されます。評価額が増える。資産が増える。自分の判断が正しかったように感じる。誰だって嬉しいものです。
しかし実は、投資家を壊しやすいのは含み損だけではありません。含み損は痛みを伴うため警戒しやすいのですが、含み益は気持ちが良いため警戒しにくい。ここに落とし穴があります。
例えば含み損が出ると、多くの人は慎重になります。買い増すべきか、損切りするべきか、本当にこの銘柄で良いのか。自然と立ち止まって考えるようになります。
ところが含み益が出ると逆です。「やっぱり自分は正しかった」「もっと買っておけばよかった」「次も勝てる気がする」。こうした感情が少しずつ生まれてきます。
含み損は資産を減らします。しかし含み益は、時として判断力を減らします。そして厄介なのは、多くの人がその変化に気付かないことです。
含み損で退場する人は目立ちます。しかし実際には、勝ち始めたことでルールが緩み、その後に大きな失敗をする人も少なくありません。
だからこの記事では、含み益がどのように投資家を弱くしていくのかを考えていきたいと思います。含み損に備える人は多い。しかし本当に警戒すべきなのは、気持ちよく勝っている時なのかもしれません。
② 含み益が生む「自分は上手い」という錯覚
含み益が増えてくると、人は少しずつ自分を過大評価し始めます。例えば投資を始めたばかりの頃。多くの人は慎重です。決算を確認する。事業内容を調べる。許容ラインを決める。「個別株は総資産の5%まで」など、自分なりのルールも作ります。
ところが含み益が増え始めると、少しずつ考え方が変わります。最初は「たまたま良かっただけかも」と思っていたのに、利益が10万円、20万円と増えていく。すると今度は「やっぱり自分は見る目があるのかもしれない」と思い始めます。
例えばAIブームや半導体相場のように、テーマ全体へ資金が流れ込む局面では、そのテーマに乗っているだけで利益が出ることがあります。しかし人は「相場が良かった」のではなく、「自分の銘柄選びが良かった」と考えやすい。
ここから少しずつ行動が変わります。5%までだった投資額が10%になる。決算を見ずに買う。SNSで見た銘柄へ飛び乗る。「今回はいける気がする」と思う。本人にルールを破ったつもりはありません。むしろ成功体験によって、自分の判断に自信を持っただけです。
しかし投資で怖いのは失敗ではありません。失敗は反省できます。本当に危険なのは成功した理由を間違えることです。運で勝ったのに実力だと思う。相場が良かっただけなのに才能だと思う。すると次も同じように勝てる気がしてくる。そして投資額が増え、リスクが増え、気付けば最初に決めたルールからどんどん離れていきます。
含み損は人を慎重にします。しかし含み益は「自分は特別かもしれない」という錯覚を与えます。だから私は、利益が出た時ほど自分を疑うようにしています。「自分が上手かったのか、それとも相場が上手かったのか。」この問いを忘れた瞬間から、人は少しずつ相場を甘く見始めるのかもしれません。

③ 含み益はリスク感覚を麻痺させる
含み益が増えてくると、多くの人は「余裕」が生まれます。本来なら良いことのように見えますが、投資ではこの余裕が思わぬ落とし穴になることがあります。
例えば、10万円の含み益が出ている銘柄があるとします。すると人は、その10万円をまだ手元に入っていないお金だと分かっていながら、どこかで「利益だから失っても大丈夫」と考え始めます。
ここから少しずつ変化が起きます。
最初は「個別株は総資産の5%まで」と決めていたのに、「含み益もあるし少しくらい増やしても大丈夫」と考えるようになる。
今までは避けていたテーマ株にも手を出す。
レバレッジ商品が気になり始める。
SNSで話題の銘柄を見ると、「今回は乗っても良いかもしれない」と思う。
面白いことに、こうした行動は損している時よりも、勝っている時の方が起こりやすいのです。
なぜなら、人は利益が出るとリスクが減ったように感じるからです。
しかし実際には逆です。
投資額は増えている。
集中投資になっている。
リスクの高い商品へ手を出している。
つまり資産全体のリスクは上がっている。
それなのに本人は、含み益というクッションがあることで危険を感じにくくなっています。
そして気付けば、「絶対にやらない」と決めていたことを普通にやっている。
含み損は人を慎重にします。しかし含み益は、「これくらいなら大丈夫」を増やします。
投資家を退場させるのは暴落だけではありません。利益によって警戒心が薄れ、自分でも気付かないうちにリスクを積み上げてしまうこともあるのです。

④ 人は利益を守るより利益を伸ばしたくなる
投資で難しいのは買うことではありません。実は売ることです。株価が下がっている時は意外と判断が簡単です。損切りするか、保有するか。その二択だからです。しかし含み益が出ている時は違います。
例えば購入した株が20%上昇したとします。売れば利益は確定します。しかし売った後にさらに上がるかもしれない。そう考えると簡単には売れません。30%上昇する。まだ上がるかもしれない。50%上昇する。ここまで来たら100%を目指したい。100%上昇する。今度はテンバガーを夢見てしまう。こうして利確のタイミングはどんどん先送りされていきます。
面白いことに、利益が大きくなるほど売るのが難しくなります。なぜなら、人は利益を確定するよりも、失うかもしれない未来の利益を意識するからです。売った瞬間に株価が上がったらどうしよう。あの時売らなければもっと儲かったかもしれない。そんな考えが頭をよぎります。
本来は、「今の株価は割高なのか」「自分の投資シナリオは達成されたのか」を考えるべきです。しかし含み益が大きくなると、「もっと上がるかもしれない」が判断基準になってしまう。これが利確の難しさです。
実際、多くの投資家は利益が出ている銘柄を売れません。そしてようやく売る決断をした頃には大きく下落していたり、逆に最後まで持ち続けて利益の大半を失ったりします。含み損で苦しむ人は多いですが、含み益で悩む人も同じくらい多い。利益を出すことよりも、利益を受け取ることの方が難しい。私は投資を続けるほど、そう感じるようになりました。
| 含み益 | 投資家の心理 |
|---|---|
| +20% | もう少し持とう |
| +50% | まだ上がりそう |
| +100% | テンバガーになるかも |
| +150% | 今売ったら後悔しそう |
| +50%(下落後) | あの時売ればよかった |
⑤ 含み益との正しい付き合い方
ここまで見てきたように、含み損は人を苦しめます。しかし含み益もまた、別の形で投資家を弱くすることがあります。自分は上手いと思ってしまう。リスクを取りすぎる。利確できなくなる。どれも投資経験が長い人ほど一度は経験することではないでしょうか。
だから重要なのは、含み益を恐れることではありません。含み益とどう付き合うかです。利益そのものは悪いものではありません。しかし扱い方を間違えると、自分のルールや判断を少しずつ狂わせてしまいます。
① 含み益は自分のお金ではない
含み益が増えてくると、つい「10万円儲かった」「50万円増えた」と考えてしまいます。しかし実際には、そのお金はまだ口座に入っていません。株価が下がれば明日には消えているかもしれないお金です。
もちろん、利益が出たらすぐ売れという話ではありません。ただ、含み益を確定した利益と同じように扱い始めると危険です。
例えば、「利益があるから少しくらいリスクを取っても良い」「利益分だから失っても痛くない」と考えてしまうケースです。
しかし市場は利益部分だけを削ってくれるわけではありません。利益を元手にリスクを増やせば、将来の資産そのものを傷つける可能性があります。
含み益は嬉しいものです。しかし私は、利益が確定するまでは「自分のお金ではなく、市場から一時的に評価されている金額」くらいに考える方が良いと思っています。
② 出口戦略を先に決める
投資で難しいのは買うことではありません。売ることです。
特に利益が出ている時ほど売る理由がなくなります。20%上昇した。50%上昇した。100%上昇した。すると今度は「もっと上がるかもしれない」が始まります。
そして気付けば、利益確定の基準がどんどん遠くなっていく。
本来なら投資を始める時に考えていたシナリオや目標があったはずです。しかし含み益が増えると、その計画よりも期待や願望が優先されやすくなります。
だから私は、購入前にある程度の出口を考えておくことが大切だと思っています。目標株価でも良い。保有期間でも良い。売却条件でも良い。
完璧に当てる必要はありません。ただ、利益が出てから考えるより、冷静な時に決めておいた方が感情に振り回されにくくなります。
③ 許容ラインを守る
含み益が増えると、人は少しずつ大胆になります。
最初は総資産の5%までだった投資額が10%になる。今までは避けていたテーマ株を買う。レバレッジ商品にも興味が出る。
本人は成長したつもりでも、実際にはリスクだけが増えていることも少なくありません。
含み益は心に余裕を与えてくれます。しかしその余裕が、「これくらい大丈夫」という油断を生むことがあります。
だからこそ大切なのが許容ラインです。
利益が出ている時ほど、「これは最初に決めたルールの範囲か」を確認する。相場が良い時ほどルールを守れる人が、長く市場に残るのだと思います。
④ 利益で人格を変えない
投資で利益が出ると気分は良くなります。それ自体は自然なことです。
しかし時には、その成功体験が人を変えてしまうことがあります。
他人の意見を聞かなくなる。自分だけは特別だと思う。リスクを軽く考える。こうした変化は一気に起こるのではなく、少しずつ積み重なります。
特に相場が良い時は、自分の実力と相場環境を勘違いしやすい。
本当は市場全体が上昇していただけかもしれない。本当はテーマが強かっただけかもしれない。それでも人は「自分が上手かった」と考えたくなります。
だからこそ利益が出ている時ほど謙虚でいることが大切です。
投資は実力だけで勝てる世界ではありません。運もあります。地合いもあります。テーマの追い風もあります。利益が出た時ほど、それを忘れないようにしたいものです。
含み益との付き合い方まとめ
| 意識したいこと | 理由 |
|---|---|
| 含み益は自分のお金ではない | 利益を過信するとリスクを取りやすくなる |
| 出口戦略を先に決める | 利確できなくなることを防ぐ |
| 許容ラインを守る | 利益によるリスク拡大を防ぐ |
| 利益で人格を変えない | 慢心や過信を避ける |
含み損は誰でも警戒します。しかし含み益は歓迎するため、変化に気付きにくい。だからこそ利益が出ている時ほど、自分の行動や考え方を見直すことが大切なのだと思います。
まとめ
投資をしていると、多くの人は含み損を警戒します。資産が減るのですから当然です。しかし今回お話ししたように、含み益もまた別の形で投資家を弱くすることがあります。
利益が出ると、自分は上手いと思ってしまう。リスクを取りすぎる。利確できなくなる。気付かないうちに許容ラインを超えてしまう。どれも特別な人だけに起きる話ではありません。むしろ投資を続けている人ほど、一度は経験することだと思います。
もちろん、利益が出ること自体は悪いことではありません。問題なのは、その利益によって自分のルールが変わってしまうことです。
含み益は自分のお金ではない。出口戦略を先に決める。許容ラインを守る。利益で人格を変えない。
どれも当たり前のように見えます。しかし相場が好調で資産が増えている時ほど、この当たり前が難しくなります。
投資で退場する人というと、大きな損失を出した人を想像しがちです。しかし実際には、大きく勝った後にルールを崩し、その後の相場で資産を失う人も少なくありません。
含み損は資産を減らします。しかし含み益は判断力を鈍らせることがあります。
だから私は、含み損が出ている時よりも、むしろ大きな含み益が出ている時の方が自分を疑うようにしています。
投資で本当に重要なのは、一度大きく勝つことではありません。相場が良い時も悪い時も、自分のルールを守り続けることです。
結局のところ、長く市場に残る人は「一番上手い人」ではありません。利益が出ても浮かれず、損失が出ても慌てず、自分の許容ラインを守り続けた人なのだと思います。
※本記事は特定銘柄の購入推奨ではありません。紹介したデータや戦略は一つの強力な指標として参考にし、投資判断はご自身のリスク許容度に応じて行ってください。
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許容ラインの曖昧さがメンタルを壊す
含み益が出た時ほど、人はルールを緩めやすくなります。投資で最も大切な「許容ライン」の考え方を解説しています。
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