「映画は時代を映す鏡」とよく言われます。
私はこの言葉がけっこう好きです。映画というのは、ただの娯楽に見えて、その時代の人々が何を恐れ、何に憧れ、どんな物語に救われたかったのかを、かなり正直に映している気がするからです。
そしてこの話は、単なる雰囲気論だけでは終わりません。
アメリカ映画市場では、映画ジャンルと景気の間に一定の関係が見られるという研究があります。つまり、景気が良い時に伸びやすいジャンル、景気が悪い時に求められやすいジャンルがあるということです。
もちろん、映画のヒットは景気だけで決まるわけではありません。俳優、監督、シリーズ人気、原作、宣伝、公開時期、競合作品など、いろいろな要素が絡みます。
それでも面白いのは、景気によって人が「どんな物語を見たいか」を変える可能性があるという点です。
景気が良い時に求められやすい物語
景気が良い時、人は現実を肯定しやすくなります。
収入や雇用への不安が薄れ、世の中全体に前向きな空気があると、挑戦や勝利、ヒーロー性を描く物語が受け入れられやすくなる。
だからアクション映画は、好況期に強いジャンルとして語られることがあります。
『スパイダーマン』『アイアンマン』『アベンジャーズ』のような作品には、困難を乗り越え、敵を倒し、世界を救うという強い物語があります。
現実に少し余裕がある時、人はこういう「前へ進む物語」を気持ちよく受け取りやすいのかもしれません。
また、ミステリーやシリアスな人間ドラマも、景気が良い時に伸びやすいジャンルとして見られることがあります。
これは少し意外ですが、考えてみると納得できます。
社会派ドラマや犯罪捜査、重い人間関係を描く作品は、見る側にも体力がいります。自分の生活が不安定な時に、さらに重い現実を映画館で見たいかと言われると、正直しんどい時があります。
逆に、景気が良く心に余裕がある時ほど、人は現実の暗い部分や複雑なテーマにも向き合いやすくなるのだと思います。
景気が悪い時に求められやすい物語
一方で、景気が悪い時に求められやすいのは、現実から少し距離を取れる物語です。
そこで出てくるのがSFです。
宇宙、未来、別世界、異星、時間、文明。SFは観客を今いる場所から遠くへ連れていってくれます。
『スター・ウォーズ』『アバター』『インターステラー』のような作品は、現実の生活不安から一度視線を外し、もっと大きな世界を見せてくれます。
不況期にSFが受け入れられやすいという見方は、人がただ現実逃避を求めているというより、現実が重い時に別の世界で心を保とうとする動きなのかもしれません。
恋愛映画も、不安定な時期に強くなりやすいジャンルとして語られます。
景気が悪い時、人は大きな成功物語よりも、身近な感情に寄り添う物語を求めることがあります。
愛されたい。分かってほしい。安心したい。誰かとつながっていたい。
『きみに読む物語』や『ラ・ラ・ランド』のような作品には、派手な勝利ではなく、感情の回復や共感があります。
お金や将来が不安定な時ほど、人は「勝つ物語」より「支え合う物語」を見たくなるのかもしれません。
映画ジャンルと景気の関係は人間らしい
こう考えると、映画ジャンルと景気の関係はかなり人間らしいです。
好況期には、現実を肯定する物語が求められやすい。
不況期には、現実から少し離れる物語や、心を安定させる物語が求められやすい。
人は環境に合わせて、見たい物語を変えるのです。
ただし、この話をそのまま日本映画市場に当てはめると、かなりズレます。
ここが一番大事です。
日本映画市場はかなり特殊
日本の映画市場は、世界的に見てもかなり特殊です。
アニメ、ファミリー作品、コミック原作、強力なIPがとても強い市場です。
コナン、ジブリ、新海誠作品、ONE PIECE、鬼滅の刃、ドラえもん、ポケモン。
こうした作品は、景気というより、シリーズの強さ、原作力、キャラクター人気、ファン層、公開時期で動きやすいです。
つまり日本では、「景気が悪いからこのジャンルが伸びる」というより、「そのIPが強いから売れる」という構造がかなり強いのです。
日本はアメリカほど実写アクション市場が大きくありませんし、観客もジャンルそのものより、作品名やキャラクター、原作への愛着で動くことが多い。
だから、アメリカで見える景気とジャンルの関係を、日本にそのまま持ち込むのは危険です。
「日本は景気が悪いと言われることも多いのに、アクションが流行っている感じはしない」
「アニメは景気と関係なく強いのでは?」
こういう違和感は、かなり正しいと思います。
日本では、ジャンルよりIPが景気を上回ることがある。
ここを無視すると、映画市場の見方を間違えます。
投資にもつながる話
この話は、投資にもつながります。
景気が良い時、人は未来に強気になります。
成長株を買いたくなる。テーマ株に乗りたくなる。高PERでも許される気がする。リスクを取ることが正しく見える。
逆に景気が悪い時、人は安心を求めます。
高配当株、生活必需品、現金、債券、安定した収益。
映画ではそれが「見たいジャンル」として出て、投資では「買われる資産」として出るだけなのかもしれません。
市場を動かしているのは、結局、人間です。
数字だけを見ていると、人間の気分を見落とします。
不安な時、人はどこへ逃げるのか。
強気な時、人は何に憧れるのか。
現実を見たいのか、現実から離れたいのか。
映画ジャンルは、その答えを少しだけ映しているのだと思います。
映画館のスクリーンに映っているのは、物語だけではありません。
その時代の景気、空気、人々の心の揺れまで、ぼんやりと映っているのかもしれません。
※本記事は、映画ジャンルと景気の関係について個人的な考察をまとめたものです。特定の映画作品、企業、投資商品を推奨するものではありません。また、映画のヒットや市場動向は景気だけで決まるものではなく、作品内容、IP、宣伝、公開時期、社会情勢など多くの要素が影響します。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
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